模様のないチェス盤
ここにチェス盤がある。
ここにはチェス盤と君と僕しかいない。
プレイヤーは君と僕だ。
チェスにはルールがある。
僕たちはまずそのルールを学ぶ。
ルールを学ぶにつれ、僕たちはチェスを打てるようになる。
そしてゲームを繰り返すにつれ、僕たちは次第に上手になる。
§
僕たちがチェスを打ち始めて長い時が流れた。
いつしかチェス盤の白と黒は擦り切れ、その境目がわからなくなった。
チェス盤の上で駒たちが右往左往する。
僕たちはもうこれまでのルールではチェスをすることができない。
そこで僕たちは新しいゲームを思いついた。
チェスの持ち駒をそれぞれ空に投げて、より多くの落ちてくる駒をキャッチできた方が勝ちだ。
§
僕たちの世界には見えないフレームがある。
僕は平成という時代に日本という国に生まれ育った。
この時代と国には特有のルールがある。
この国の台地には白と黒の模様さえある。
この、生まれ育つ過程で知らぬ間にインストールしていたルールにまず気づくこと。
そしてそれを遠くから眺めること。
さらにそこから別のルールに目を移すこと。
時代と場所を移動して、自分がこれまで踊っていた踊りが、数あるジャンルの中のひとつでしかないと気づくこと。
これが、哲学にできることのうちのひとつ。